テアニンの神経細胞新生の可能性

テアニンの脳神経細胞新生促進作用(ラット試験)

ラット胎児脳の未分化細胞を取り出し、それにテアニンを添加して培養することで、脳神経細胞の前身である神経幹細胞の分裂能力が増加しました。さらにテアニンは、この神経幹細胞が神経細胞に分化するのを促進すると同時に、アストログリア細胞(※3)に分化するのを抑制しました。
緑茶中の「テアニン」が神経細胞の新生を促進するとともに、テアニンを多く含んだ緑茶抹の継続的な摂取が軽度認知症患者の症状悪化を和らげる可能性があることを確認
日本農芸化学会 2007(3 月 26 日)にて共同研究の詳細を発表
次に、マウスを鎖骨のところまで水につけ、3 時間拘束すると、5 日後には神経幹細胞の分裂能力が抑制されることがわかっています。このマウスに、拘束前あるいは拘束後にテアニン 50mg/kg を 5 日間、1 日 1 回だけ投与しました。そのマウスの海馬の断面を、新しく分裂した神経幹細胞だけを染色して、細胞の新生を調べたところ、テアニンを投与することで、神経幹細胞の新生が有意に回復することが確認されました。
この結果から、テアニンの持続的な摂取により、脳神経細胞の新生が促進されることが示唆されました。

実施例1:目的

神経幹細胞は、神経系前駆細胞を経て神経細胞に分化されるか、グリア前駆細胞を経てアストロサイト又はオリゴデンドロサイトに分化する。
胎児の神経幹細胞は約50%の確率で神経細胞又はグリア細胞に分化するが、成人の神経幹細胞は、全てがグリア細胞に分化する。
グリア細胞への分化を抑制して、神経系前駆細胞の増殖能を上昇させ、さらに神経細胞への分化を促進する成分があれば、神経細胞新生による老化予防作用や中枢神経系に関する疾病の予防や治療が期待できる。
このことから、ラットの脳神経細胞にテアニンを作用させることにより神経細胞新生を評価した。

実施例2:実験方法

2-1.神経系前駆細胞の培養及び分化能の確認

胎児18日齢ラット胎児脳から大脳皮質を切り出した後、酵素処理及びPercoll密度勾配遠心分離法により下層フラクションを画分した。
この下層フラクションを、20ng/mLのbFGF又は10ng/mLのEGFを添加した条件下で12日間培養することにより、神経塊Neurosphereを得た。
前記神経塊を4%のパラホルムアルデヒドで固定後、神経系前駆細胞のマーカータンパク質であるnestin、神経細胞マーカータンパク質であるMAP-2、及びアストログリア細胞マーカータンパク質であるGFAPの発現量を、免疫細胞化学法によりそれぞれ調べた結果、神経塊のほとんど全てがnestin陽性であったのに対して、MAP-2陽性細胞およびGFAP陽性細胞は全く検出されないことを確認した。
このことから、得られた神経塊Neurosphereは、神経系前駆細胞から成るものであって、神経細胞やアストログリア細胞を含むものではないことがわかった。
次いで、培養12日目の神経塊について培養液からbFGF又はEGFを除去してさらに6日間培養したところ、MAP2あるいはGFAPに陽性を示す細胞が多数観察された。このことから、得られた神経塊Neurosphereは、神経系前駆細胞であるものの神経細胞やアストログリア細胞への分化能を失ったわけではなく、bFGF又はEGFの非存在下では神経細胞やアストログリア細胞への分化能を有することがわかった。
すなわち、本実験条件下に調製された細胞は、神経塊を形成する増殖能と自己複製能を有するだけでなく、神経細胞とアストログリア細胞への分化能を示すことは明らかである。

2-2.実験プロトコル

テアニンの作用については、1~100μMのテアニン添加条件下で神経系前駆細胞を12日間培養した後、細胞を一部回収して細胞増殖能を評価した。
100μMのテアニン存在下で形成された神経塊をテアニン非添加条件下にさらに6日間培養した後、18日目に細胞を回収してウエスタンブロット法により、神経細胞とアストログリア細胞の各マーカータンパク質を定量的に測定した。
このときに、神経塊培養液から増殖因子のbFGFやEGFを除去するだけでなく、神経細胞分化を促進する分化誘導因子ATRA 100ng/mL、又はアストログリア細胞分化を促進する分化誘導因子CNTF 20ng/mLを添加し、それぞれ添加条件下に12日目から6日間細胞培養を継続後、細胞を回収してウエスタンブロット法により解析を行った。

2-3.細胞増殖能の測定

細胞増殖能の測定については、3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-
dimethyltetrazolium bromide(MTT)還元能の定量化により行った。
培養12日目の神経塊について、0.5mg/mLのMTTを含むHepes Krebs-Ringer緩衝液に培養液を交換してから、CO2インキュベーター内で37℃、1時間インキュベーション後、99.5%イソプロパノールと0.04MのHClの混液で可溶化した。
生成したMTTホルマザン量は、マイクロプレートリーダーを用いた550nm吸光度測定により定量化した。
各試験は全てトリプルケイトで行った。
得られた吸光度の値をもとに対照群に対するパーセントで算出し、その結果を平均値および標準誤差で表示した。
なお、MTT法とは生細胞数の測定に用いる方法であり、MTTが細胞内のミトコンドリアの脱水素酵素の基質となって、生存能の高い細胞ほど多くのMTTが還元される性質を利用するものである。

実施例3:結果

3-1.神経系前駆細胞の増殖促進能

テアニン1~100μM存在下に12日間神経塊を培養すると、テアニン含有量の多少に関係なく、非添加群と比較して有意なMTT還元能が観察された。
特に、100μMテアニン添加条件下で神経塊を培養した場合のMTT還元能は、テアニン非添加群で神経塊を培養した場合のMTT還元能と比較して、約2倍程度という顕著な還元能が観察された。
このことから、テアニンは神経系前駆細胞の増殖能力を増強することがわかった。

3-2.神経細胞への分化促進能

増殖能に対する効果の最も強かったテアニン100μMの存在下において12日間神経塊を培養した後、培養液からテアニンとbFGFを除去してさらに6日間培養した。
このようにして合計18日間培養した細胞について、神経細胞マーカータンパク質であるMAP2発現量を検討したところ、事前にテアニン存在下で培養した神経塊では、テアニン非存在下で培養した神経塊と比較して、自発的分化条件下では50%以上多いMAP2が発現することが明らかとなった。
次いで、ATRA添加条件下で細胞を分化させたところ、事前のテアニン添加にかかわらずMAP2発現量の有意な増加が観察された。
しかしながら、事前にテアニンに曝露した神経塊では、ATRAによるMAP2発現増加がさらに上昇することが見出された。
これに対して、CNTF添加条件下で細胞を分化させたところ、MAP2発現量はいずれも細胞においても有意に低下したが、この場合でも事前のテアニン曝露はMAP2発現量を有意に増加させる事実が判明した。
このことから、自発性分化と誘発性分化とのいずれの場合であっても、神経系前駆細胞をテアニン存在下で培養すると、その後の神経細胞への分化が促進されることがわかった。

3-3.アストログリア細胞への分化抑制能

同様に、テアニン100μMの存在下において12日間神経塊を培養した後、培養液からテアニンとbFGFを除去してさらに6日間培養した。
合計18日間培養した細胞について、アストログリア細胞マーカータンパク質であるGFAP発現量を調べたところ、事前にテアニン存在下で培養した神経塊では、テアニン非存在下で培養した神経塊と比較して、自発的な分化条件下ではGFAP発現量が有意に低下することが明らかとなった。
次いで、ATRA添加条件下で細胞を分化したところ、事前のテアニン添加にかかわらずGFAP発現量の有意な低下が観察された。
しかしながら、事前にテアニンに曝露した神経塊では、ATRAによるGFAP発現低下がさらに減少することが見出された。
これに対して、CNTF添加条件下で細胞を分化させたところ、GFAP発現量はいずれの細胞においても有意に上昇したが、この場合でも事前のテアニン曝露はGFAP発現量を有意に低下させる事実が判明した。
このことから、自発性分化と誘発性分化とのいずれの場合であっても、神経系前駆細胞をテアニン存在下で培養すると、その後のアストログリア細胞への分化が抑制されることがわかった。

4:考察

以上の結果は、
緑茶成分であるテアニンが、神経系前駆細胞の増殖能を上昇させるだけでなく、神経細胞への分化を促進すると同時にアストログリア細胞への分化を抑制することを示している。
この事実は、テアニンが上述用途の他に下記用途に用いることが可能である。

胎児期及び乳幼児期等の発達過程にある脳の機能制御剤
老化に伴う神経細胞死、アルツハイマー病やパーキンソン病など成熟脳における神経変性疾患発病後の神経細胞新生及び神経細胞新生促進
脳障害に伴う神経細胞死あるいは神経細胞脱落に対して、神経細胞新生及び神経細胞新生促進による脳機能改善
強烈なストレス付加に伴う神経細胞新生抑制剤あるいは脱落の予防
以上のように、テアニンを利用した予防医学、神経再生医療への臨床的応用、飲料食品への応用が期待できる。

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